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◇
「なるほど、一つ目の事件はだいたいわかった」
恋しい煙草を右手で弄ぶ。
淡々と、令子は語った。それでも、そこで感じたであろう恐怖が伝わってきた。
時々震える声を聞くと、これ以上話させるのは悪いとさえ思える。
「警備員に感謝だな」
「車のナンバーは二人とも覚えていなかった。車種は有名メーカーの人気車。目撃者も見つかってない。対象が広すぎる上に、印象に残っているか怪しい。直接犯人に結びつくものは、何一つない」
頼久がソファーに座り直した。やはり引っかかるものがある。
「だろうな」
わざとらしく肩を竦めてその感情をごまかした。
「それで、二件目の事件は?」
令子が俯いた。やはり思い出したくはないのだろう。
意を決するように、令子が大きく息を吸った。
令子が口を開こうとするその瞬間、頼久が令子の言葉を遮った。
「俺が話そう。足りない所を令子ちゃんに補ってもらえばいい」
「その方が良さそうだ」
頼久が頷き、話を始める。
時刻は四時を少し回っていた。頼久が来てから一時間半が経過している。
「二件目は一件目から十日後、つまり昨日の朝。令子ちゃんの自宅の近くで起きた」
「頼久の家も近いわけだ」
圭の言葉を気にする素振りもなく、真面目な表情のまま頼久は続けた。
「一件目の事件があるので、彼女も外出は控えていたが、食料品の買い物に出た。一件目から不審な様子もなかったし、明るい内なら大丈夫と思ったんだろう」
令子が頷く。アイスティーのグラスを傾けながら頼久の話を聞いた。
「その帰り道、彼女の周りにたまたま人気が無くなった所で、黒のRV車が走ってきた。彼女の脇で停まると、中から男が出てきた」
「多分、一件目の男の人と同じ人だと思います」
令子が推測を付け足した。
「車の中に連れ込まれようとしたが、たまたまジョギングしていた男性二人が通りかかった。それで、犯人は諦めて逃げた。危ない所だった」
本当に危ない。一件目も二件目も、運が良かっただけだ。
「二件目はそんな所だな。今度は令子ちゃんも車のナンバーを覚えていた」
「で、盗難車だったとでも?」
「事件の一時間ほど前に、近くで盗まれたものだった」
本当に盗難車とは。なんとも都合のいい話だ。
「結局二件の事件とも有力な手がかりはなし、というわけだ」
確かに事件の話から犯人の姿は全く浮き上がってこない。本当に、全く。
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