2747人が本棚に入れています
本棚に追加
「聞いた感じ、犯行の手際は悪くないね」
煙草を手に取った。我慢の限界だった。
「吸っても?」
令子に向かって笑顔を向けた。令子が小さく頷く。煙草に火をつけてから、圭は率直な感想を口にした。
「やっぱり警備会社じゃないかな、この相談は。少なくとも私立探偵の仕事じゃない」
頼久も理緒も、納得の表情からはほど遠い。
「鬼かお前は」
「圭さん見損なった」
「俺は冷静に状況を判断して言っているだけだ」
煙草の煙を吐き出した。部屋中が重い空気に包まれている。
ゆっくりと煙草を吸い終え、まだ一本も吸い殻の入っていない灰皿に煙草を押し付けた。
「でもまあ、今日は泊まっていくといい。幸い寝室には使っていないベッドがあるし。不安なら、理緒も一緒に泊まればいいし」
とりあえず妥協案を提出した。このままでは、頼久も帰るに帰れないだろう。
ただ、やってもいいという気持ちは芽生え始めている。いくつか引っかかっていたものの正体が、なんとなくわかったからだ。
それがわかると、一番最初感じたよりも、面倒な仕事ではないと思える。寧ろ、簡単な仕事だ。
頼久も納得はしていないようだが、提案を受け入れた。
「絶対にこの仕事やれ。親友の頼みだ」
そんな捨て台詞を残して、頼久は帰った。理緒と令子と圭。三人が残される。
「圭さん、夕食どうしようか?」
理緒の明るい声が響いた。敢えて明るく振る舞っているのが、圭にはわかった。
「理緒が作ればいいんじゃないか?」
「うん。でもせっかくだし、下で食べない?」
理緒がこちらを見ながら首を傾げる。
「久しぶりに行くか」
襲われる事はないだろう。この場所もまだ知られてはいないはずだ。
「下って、カフェ?」
令子が理緒に疑問をぶつける。
「夜になると、バーになるんだ。美味しいお酒と料理。それにマスターがカッコいいんだよ」
「まだ少し早いし、しばらく理緒と寝室でゆっくりしてれば良い」
「圭さんは何をするの?」
「寝る」
この話を引き受けるとして、引っかかっていたものの正体を、今の内に整理しておきたい。
「じゃあ、寝室に行こうか。こっちだよ」
理緒の言葉を背中で聞きながら、既に思考を巡らせていた。
事件の話を思い出し、一つ一つの事実を反芻する。やはり、行き着く結論は同じだった。
頼久の顔を思い浮かべながら、煙草に火を灯した。
最初のコメントを投稿しよう!