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「お二人は何にする?」
「あたしもビール」
間髪入れず、正直な希望を伝える。
「十九の娘が、躊躇なくビールを頼むか?」
圭が呟く。カウンターの下で圭の臑を蹴飛ばした。
「私は、カシスオレンジ」
「令子ちゃんを見てみろ。あれが乙女の正しい姿だ」
もう一度、理緒は圭の臑を蹴飛ばした。仁が手際良く飲み物を用意して、三人の前に置く。
見ると、仁もビールを手にしている。それについて、圭が口を開いた。
「飲むのか、仁?」
「今日は暇そうだし」
口元で微かに笑う仁。
四人がそれぞれにグラスを手にする。令子が持つグラスの中身だけは、鮮やかな色だ。
「それじゃ、かんぱーい」
理緒が声を上げて、四人はグラスを合わせた。小気味よい音が響く。
ビールを口の中に流し込む。少し乾いていた喉に、ビールが染み渡っていく。
「うーん。やっぱりビールは最高だね」
「食べ物は?」
仁がメニューを取り出す。この店は一応バーだがメニューはかなり豊富だ。
普通のおつまみから凝った和食に中華、パスタにまで結構な種類がある。
仁はどこで勉強したのか知らないが、料理が上手い。理緒もたまに仁から料理を習ったりしている。
メニューは令子に渡した。自分と圭は今更メニューを見る必要もない。
「ソーセージを貰おうか」
いつも圭はソーセージを注文する。ビールとの組み合わせは何よりも最高らしい。
「あたしは……、ささみ明太チーズと、あとカニクリームコロッケと……、とりあえずそれで」
「私、シーザーサラダ」
「令子それだけで良いの?」
「うん」
「お前が普通の女の子とはズレてるだけだ」
「あたしだって乙女する時は乙女するわよ。今日はその必要もないし」
圭の小言に反論する。仁が笑顔を浮かべながらグラスを傾けた。
しばらくして料理が運ばれてきた。
「このカニクリームコロッケがたまんないのよねぇ」
一口目をじっくり味わってから、思わず感嘆の声を漏らした。レシピを聞いて何度か作ってみた事もあるが、どこか仁が作ったものとは違う。
令子はシーザーサラダを口にしていた。
食欲がないのかもしれない。無理に何か勧めるのはやめておいた。
「おかわり」
もう三杯目のビールを、圭が注文する。
「あたしも」
ちょうど理緒のグラスも開いたところだった。
「了解」
仁がすぐに新しいビールを用意して、二人の前においた。
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