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「君の依頼、受けるよ」
「本当ですか」
「ああ。親友と助手の頼みだ。二人を敵に回したくないしな」
真面目な表情のままで、照れ隠しのような台詞を圭が吐く。その様子がおかしくて、一人で思わずにやけてしまう。
「あの、お金とかは……」
「全部終わった後に、この店で一度奢ってくれればいい。たまには、そういうのも悪くない」
恥ずかしさを紛らわすためか、圭が夜空を見上げた。
「ありがとうございます」
令子が深々と頭を下げる。圭は笑顔で応えていた。
頼久の事をいつもお人好しという割に、圭も十分お人好しなのだ。
「終わるまでは、上で暮らせばいい。明日になったらまた詳しい話を聞くよ」
「はい。よろしくお願いします」
「じゃあ戻るか。もうこんな時間だ」
時刻は夜の十一時を過ぎている。
自分も圭も、そして令子も、程良く酔っていた。酔った身にはつらい急な階段を上がって、部屋に戻る。
圭はすぐにソファーに横たわると、毛布を被って目を閉じていた。
令子と交替でシャワーを浴びてから寝室に入った。酔いもシャワーを浴びたせいか少し抜けたような気がする。
「圭さんに任せとけば、安心だよ。本当にすごいんだから」
言いながら、ベッド横に敷いた布団にくるまる。
「うん。理緒と望月さんが信用してるし、私も信用する事にする」
「きっと犯人なんかあっという間に見つけて、警察に連れてっちゃうよ」
「うん」
令子の返事は明るかった。アルコールのおかげという気もするが、それだけではない気もする。
「まあ安心して、ゆっくり眠りなよ。おやすみ」
「うん、おやすみ」
それからしばらくして、令子が寝息をたて始めた。
暗闇の中で少しずつ眠りの世界が近付いてくる。
時々ドアの向こうから、ジッポを開け閉めする音が響く。
圭はまだ起きて、何か考えているのだろう。そうしている事が、時々ある。
ジッポの閉じられる乾いた音を最後に、意識が深く遠のいていった。
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