記憶

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「この映画、ずっと見たかったんだ。どうせならでっかいテレビで見たかったしね」 理緒が手に下げた袋から薄いDVDケースを取り出す。隣のレンタルビデオ店で借りてきたようだ。 「どうせ暇だろうし、三部作全部借りてきた。令子はこれ見たことある?」 「いや、あんまり映画見ないから」 「そっか、絶対面白いよ、これ」 理緒が借りてきたのは、ファンタジー調で中世ヨーロッパの海賊を描いた大作映画だった。 「どうせ金だけかけた、くだらん映画だろう」 「文句言うなら見なくていいよ」 「そのつもりさ」 テーブルの上にあった今日の新聞に手を伸ばす。理緒がDVDをセットしてから圭の座っているソファーの隣に座った。 しばらくは新聞を読んでいたが、結局圭も映画を見始めた。 何だかんだ言っても、金をかけた大作映画は面白い。 三人で夢中になりながら映画を見た。一作目が終わり、すぐ二作目を見始める。 買い置きしてあった菓子をつまみながら、二人は映画を見ている。圭は煙草を吸いながら、時々アイスティーのグラスを傾けた。 途中でアイスティーが無くなった事を理緒に告げたが、無視された。仕方なく煙草だけを吸い続けた。 二作目も終盤、海賊船を襲う海の怪物との戦いが始まった時に、頼久がやって来た。 「何をしてるんだ。君達は」 テレビを食らいつくように見ている三人を眺めて、頼久が眉を顰める。 「話を始めようじゃないか」 「悪いな頼久。話は映画が終わってからだ」 「圭さんに賛成だね」 「おいおい、俺も暇じゃないんだ」 テレビからは遠い場所に置かれた椅子に腰掛けながら、頼久がため息をつく。 「野暮な男だな、君も」 「圭さんの言う通り」 理緒が援護する。頼久は諦めたのか、どこかに一本電話をかけると、後は所在なさげにしていた。 海の怪物に、キャプテンと共に海賊船は飲み込まれてしまった。残った仲間達が、方策を練る。そして意外な人物の登場を最後に、映画は終わった。 「三作目を見るのは……?」 理緒が頼久の顔色を窺う。頼久が言葉ではなく、表情で答えた。 「ですよねー。あー、面白かった」 笑いながら理緒が席を立ち、キッチンに向かう。すぐにコーヒーを三つとアイスティーを一つ用意して出てきた。 「じゃあ、始めようか」 話を始めた後ろで、エンドロールが流れる中、映画のテーマ曲が力強く響いていた。
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