2747人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあまず、事件を整理しようか」
隣に座った理緒と、正面の令子が頷く。頼久は少し離れた椅子に座り、コーヒーを口にしている。
「まず、金谷組の組長の遺産の一部を令子ちゃんが受け継いだ」
煙草を一本取り出した。
「その後、二度の誘拐未遂。一度目はショッピングモール、二度目は家の近くの路上で。犯行の手際は悪くないし、車を窃盗する技術や銃も持っている」
装飾のないジッポで、煙草に火を灯す。
「ここで質問。令子ちゃん、犯人の正体に心当たりは?」
令子がさっぱりというように、首を横に振った。
「令子ちゃんが知ってるはずないだろう、圭」
後ろから頼久の声が響く。
「まあ当然だ。じゃあ犯人の狙いは何だと思う?」
「遺産、じゃないの?」
理緒が口に手を当てながら呟く。
「襲われた時期を見ても、そう想像できる。一応令子ちゃんに聞いておくけど、他に心当たりは?」
「……ありません」
俯いて少し考えるようにした後、令子が言った。肩まである黒髪が、柔らかに揺れる。
「では犯人の目的は遺産、という事にしよう。今の令子ちゃんの状況を考えれば、一番自然ではある」
「当然の流れだな」
一度煙草の煙で肺を満たして、そして吐いた。
「では何故犯人は遺産を狙うのか」
「金が目的じゃないのか?」
頼久が少し苛立っているようだ。
「本当にそうかな。これは非常に重要な問題だ。犯人が何を狙っているかで、犯人像も大きく変わる」
「確かに、そうね」
納得したように理緒が頷く。
「そこで令子ちゃん。君がお父さんから受け継いだ遺産の内容、それをすべて話して欲しい。プライベートな質問で失礼だとは思うけど」
「私が貰ったのは……」
令子が何かを思い出すような表情を浮かべた。一呼吸おいて、令子が口を開く。
「お金です。五千万円。元々は土地の権利みたいだったんだけど、私では管理出来ないので、すべてお金に変えてから渡されました」
「誰がその手続きを?」
「弁護士です。父の遺言書にそうするように書いてありました。遺言書と土地の内容を、何度か弁護士に確認をさせられた後、お金が振り込まれました」
「どこの土地だったかは覚えてる?」
「北海道や長野です。細かい住所は覚えてないけど、リゾート地だって弁護士は言っていました」
「なるほど」
令子の言った内容を頭に刻みつける。
一つ息を吐いて、短くなった煙草を灰皿に擦り付けた。
最初のコメントを投稿しよう!