記憶

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「じゃあまず、事件を整理しようか」 隣に座った理緒と、正面の令子が頷く。頼久は少し離れた椅子に座り、コーヒーを口にしている。 「まず、金谷組の組長の遺産の一部を令子ちゃんが受け継いだ」 煙草を一本取り出した。 「その後、二度の誘拐未遂。一度目はショッピングモール、二度目は家の近くの路上で。犯行の手際は悪くないし、車を窃盗する技術や銃も持っている」 装飾のないジッポで、煙草に火を灯す。 「ここで質問。令子ちゃん、犯人の正体に心当たりは?」 令子がさっぱりというように、首を横に振った。 「令子ちゃんが知ってるはずないだろう、圭」 後ろから頼久の声が響く。 「まあ当然だ。じゃあ犯人の狙いは何だと思う?」 「遺産、じゃないの?」 理緒が口に手を当てながら呟く。 「襲われた時期を見ても、そう想像できる。一応令子ちゃんに聞いておくけど、他に心当たりは?」 「……ありません」 俯いて少し考えるようにした後、令子が言った。肩まである黒髪が、柔らかに揺れる。 「では犯人の目的は遺産、という事にしよう。今の令子ちゃんの状況を考えれば、一番自然ではある」 「当然の流れだな」 一度煙草の煙で肺を満たして、そして吐いた。 「では何故犯人は遺産を狙うのか」 「金が目的じゃないのか?」 頼久が少し苛立っているようだ。 「本当にそうかな。これは非常に重要な問題だ。犯人が何を狙っているかで、犯人像も大きく変わる」 「確かに、そうね」 納得したように理緒が頷く。 「そこで令子ちゃん。君がお父さんから受け継いだ遺産の内容、それをすべて話して欲しい。プライベートな質問で失礼だとは思うけど」 「私が貰ったのは……」 令子が何かを思い出すような表情を浮かべた。一呼吸おいて、令子が口を開く。 「お金です。五千万円。元々は土地の権利みたいだったんだけど、私では管理出来ないので、すべてお金に変えてから渡されました」 「誰がその手続きを?」 「弁護士です。父の遺言書にそうするように書いてありました。遺言書と土地の内容を、何度か弁護士に確認をさせられた後、お金が振り込まれました」 「どこの土地だったかは覚えてる?」 「北海道や長野です。細かい住所は覚えてないけど、リゾート地だって弁護士は言っていました」 「なるほど」 令子の言った内容を頭に刻みつける。 一つ息を吐いて、短くなった煙草を灰皿に擦り付けた。
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