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「遺産は、本当にそれだけかな? 他には?」
「いえ、お金だけです」
「本当にそうかい? もう一度よく思い出してくれ。お父さんから貰ったものだけじゃなく、君のお母さんから貰ったものでもいい」
「おい。この質問に何の意味があるんだ」
背中越しに頼久が疑問をぶつけてくる。
「金じゃなくて、何か他に受け取っているはずなんだ」
「なんでそう思うんだ?」
「勘かな。根拠もないわけじゃないけど」
アイスティーのグラスを傾けた。グラスに付いた水滴がいくつか床の上に落ちる。
「犯人は金谷組の人じゃないの? 大体令子が遺産を貰ったって知ってる人自体、そんなに多くないんだし」
理緒がこちらの表情を窺うように覗き込んでくる。
「それは、ないと思ってる」
「何で?」
「勘、かな。これも」
「何よそれ、真面目に考えてるの?」
理緒の凛とした瞳が睨み付けてくる。
「大真面目さ」
理緒がため息をついた。
根拠はある。しかし今ここで言うべき事ではない。
令子が必死に何かを思い出そうとしている。しばらく沈黙が続いた。
理緒がキッチンに立ち、新しいコーヒーとアイスティーを用意してきた。
「思い出せない」
令子が大きくため息をついた。
「もう少し、思い出してみてくれないか。お母さんから貰った、変わった物とか」
「変わった物……」
再び、令子が考え込み始める。しばらくして何かを思い出したように口を開いた。
「そういえば……。貰った物じゃないんですけど」
「何でもいい。話してみてくれ」
「母が病気で死んだ後、病室の後片付けをしたんです。最期は入院していたので」
煙草に火をつけた。令子が続ける。
「その時、変なメモを見つけました」
「内容は?」
「四桁の数字とちょっとした文章です。母の字ではないので、不思議に思ったんですけど、メモの意味も良くわからなかったし、その後は忘れてました」
「いかにもって感じだね。そのメモは今どこに?」
「私の家です。多分リビングか、母が使っていた部屋のどこかにしまったはずです」
「それが必要だな」
それが何を意味しているのか考えながら呟いた。
しかし、内容がわからない事には、どうしようもない。
「ちょっと待て、それが犯人と何の関係があるんだ」
頼久の疑問が飛んでくる。
圭は一度ゆっくりと肩を竦めた。
「焦るなよ、頼久君。これからそれを話す所だ」
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