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「勿体つけずに、さっさと話せばいいんだ」
頼久が苛立ちを吐き出す。
「警視庁のキャリアが、そんな事で苛立つなよ」
「ほっとけ」
手にしたグラスをテーブルの上に置いてから、話を始めた。
「まず、犯人は金谷組の連中じゃない。確信はないけど。意外と律儀なもんだ、ヤクザは。組長の遺言となったら、尚更さ」
本当はそんな理由からではない。
理緒が納得いかないような顔を浮かべている。頼久は反論しない。
「そしてこれも多分だけど、犯人の目的は金じゃない。そのメモが示す何かを、犯人は狙っているんだろう」
「それはどうして?」
理緒が本当にわからないというような表情を浮かべている。
「金だけを狙っているんなら、誘拐って方法は少しおかしくないか?」
「どういう事?」
「令子ちゃんは今家族もいない。誘拐したとして、誰に金を要求する? 金目当てなら、令子ちゃん相手に電話や文書で脅迫って方がずっと自然だ」
「誘拐してから脅迫するつもりだったのかも」
「そんな回りくどい事するかな。少なくとも俺が金目的なら、単に令子ちゃんを脅迫する。誘拐するよりずっとリスクも少ないし」
「なるほど」
納得したように、理緒が頷いた。
「だから、誘拐には金以外の別の目的があるんじゃないかと考えた。例えば、令子ちゃんだけが知ってるであろう何かを聞き出すためとか。これなら、誘拐という方法をとってもおかしくないだろ? 脅迫しても知らぬ存ざぬを通されたら、お手上げだしね」
「一応、筋は通ってるんじゃないか」
頼久が低い声で認めた。
「推論の域は出ないけどな。話を聞いた限り、犯行の手際はいい。そういう頭の悪くない犯人が、誘拐というリスクの高い手段を選ぶんだから、それなりの何かが令子ちゃん自体にあるはずなんだ。そしてそれらしき物も、令子ちゃんの口から語られた」
「お母さんの病室にあったメモ、ね」
理緒の顔を見て、圭は首を縦に振った。
「とりあえずそのメモを見てみたい。メモの内容が犯人が求めているものなら、その意味している事がわかれば、犯人の事も何かわかるかもしれない」
「そのメモが本当に犯人の求めるものなのか?」
またしても飛んできたのは頼久の疑問。
「もちろん違う可能性はある。だから令子ちゃんは引き続き、お父さんやお母さんから貰ったものや、言われた事を思い出して欲しい」
令子が黒髪を優しく揺らしながら頷いた。
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