記憶

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「頼久にも頼みたい事がある。金谷組に関する噂を調べて欲しい」 「噂?」 「例えば組長の隠し財産とか」 「そんなものがあるのか?」 「わからないから調べて欲しいんじゃないか」 「使える部下にやらせてみる」 頼久の声が力強く響く。 「部下が使えるんなら、令子ちゃんの護衛と犯人探しもやらせりゃいいのに。そもそも何で警察が動かない?」 「令子ちゃんには申し訳ないと思う。護衛もいつまでもって訳にはいかないんだ」 「お役所仕事だな」 「警察もいろいろあるんだ」 頼久が静かに息を吐いた。令子は俯いている。 煙草を取り出して、火を灯した。 「そのメモ、取りに行こうか。令子ちゃんの着替えとかも必要だし。早速、今から行こう」 「令子ちゃんも連れて行くのか? 危険だろう」 当然心配すべき所だ。 「令子ちゃんは仁に預けておく。俺と理緒で行く」 「仁に預けとけば大丈夫か」 納得したように頼久が声を上げた。 「仁は四時には下に来るはずだ。それまでに令子ちゃんは、家の見取り図と持って来て欲しいもののリストを書いといて。令子ちゃんの部屋でいろいろ探すのは理緒にやらせるから、その点は安心してくれ」 「そういう気遣いも出来るんだ、圭さん」 理緒が露骨な驚きの表情を浮かべる。 「あんまり馬鹿にするなよ。令子ちゃんは急いで見取り図とリストを。理緒は家からバイク持って来るんだ。頼久は仕事に戻ればいい。金谷組の噂だけは、しっかり調べてくれ」 理緒はバイクに乗る。可憐な顔からは想像もつかないほど、運転は荒い。 「圭さんは何をするの?」 「寝る」 理緒にテーブルの下で蹴飛ばされた。 リビングにかかっているアンティークの時計に目をやると、時刻は三時半だった。 頼久と理緒はすぐに事務所を出て行った。令子と二人きりになる。 圭はソファーに寝転がって天井を見ていた。 テーブルの上で令子がペンを走らせる音が響く。 ふと令子の方を見ると、令子もちょうどこちらを見ていて、目が合った。 令子が微笑を浮かべてから、口を開いた。 「なんか、理緒が二宮さんの事よく話す理由、わかった気がします」 「理緒がそんな事話すんだ」 「いつも話してましたよ。楽しそうに」 「理緒はなんて言ってた?」 「ちょっとおかしな人だけど、すごい人だって」 「まあ、当たってるかも」 令子が柔らかく笑った。 初めて会った時に感じた冷たさを、その笑顔からは感じなかった。
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