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寝室でバイクに乗るための服装に着替えた。ジャケットに薄手のシャツ、下はいつも穿いているジーンズだ。
寝室にはいい香りが残っていた。昨日理緒と令子がこの部屋で眠ったからだろう。
いつもリビングのソファーで眠っていて、この寝室を使った事はない。服を着替える時に使うだけだ。
寝室の外に出ると、令子が声をかけてきた。
「書き終わりました」
「うん。理緒に渡してくれればいい」
ちょうどCB400SFのエンジン音が、外から響いてきた。理緒の愛車だ。
「理緒も来たみたいだ。下に降りよう」
「理緒がバイクに乗るなんて知りませんでした」
「普段はあまり乗らないからな」
急な階段を降りて、表に出た。建物の正面で理緒がバイクに跨ったまま、仁と話をしている。
二人のいる所まで歩いた。理緒も服装が変わっている。
「仁、この娘を頼むよ」
「事情は良く知らないけどな」
仁が小さく笑みを浮かべる。
「仁さん、よろしくお願いします」
令子が深々と頭を下げた。
「仁さん、令子にご飯食べさせなくていいよ。今日は私が作るから」
「了解」
「理緒、これ」
令子が先ほど書いた紙を理緒に渡す。理緒はそれを受け取ると、持っていた大きいバッグに入れた。
そのバッグとちょっと頼りないヘルメットを投げつけてきた。なんとかそれを落とさずに受け取る。
「メモはリビングかお母さんの部屋だよね」
「多分」
「まあ、なんとかなるか」
頼りないヘルメットを頭に乗せる。
「家の場所はわかるんだよな、理緒」
「一回行った事あるし、大丈夫だと思う」
「よし、行こう」
バッグを肩に担いでバイクの後部座席に座った。
座席が高くて、少し苦労した。理緒がフルフェイスのヘルメットを被る。
「じゃあ、行ってきまーす」
理緒の明るい声が響くと同時に、バイクが走り出す。道に出て車の流れに乗る。
「少し太ったんじゃないか?」
腕は理緒の華奢な腰に回している。
「うるさい。振り落とすよ。ていうか、いい加減車直しなさいよ」
理緒のくぐもった声が、風を切る音の中で聞こえた。
自分の車は半年前、急にエンジンがかからなくなった。以来ずっと放っておいたままだ。
元々あまり乗らないし、運転は苦手だった。
「面倒なんだよな」
「変な所で面倒くさがるんだから」
CB400SFが唸るように加速していく。
二号線に出て、そこからは西に向かった。
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