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三十分ほど走った後、住宅街の中に入った。
道が細い。理緒はアクセルを握る力を緩めた。記憶の片隅から令子の家の場所を手繰り寄せる。
「まずい。この辺りから記憶が曖昧」
「しっかりしてくれよ」
「前は電車で来たんだよね。というか、望月さんの家の隣なんでしょう? 知らないの?」
「頼久の家なんて知らない」
「どんな親友なのよ、あなた達」
しばらく住宅街の中をさまようように走り回った。
「あれだ」
視線の先に令子の家を見つけた。
「ここ何回か通ったよな」
「文句ばっかり言わないの」
令子の家の前にバイクを停めて、エンジンを切る。
「結構平凡な感じだな」
「何を想像してたのよ?」
「ちょっとした豪邸」
「バカじゃないの」
ヘルメットを外した。少し冷たい風が心地良い。
見ると、圭がヘルメットを片手に、ショックを受けたように佇んでいる。バカと言ったのが堪えたのだろうか。
「でも令子一人で住むには広すぎる位でしょ」
「確かに」
白く塗られた塀の真ん中にある門を開けて、中に入る。ポケットから令子に貰っておいた鍵を取り出す。
「鍵の事なんて忘れてた。いつ貰ったんだ?」
「事務所を出る前。圭さんに抜けた所があるのは知ってるしね」
「いつからそんな酷い事を言う娘に……」
「少しは黙りなさいよ」
鍵を差し込んで回すと、鍵が開いた。ゆっくりとドアを開ける。
主のいない家は、どこか冷たい感じがした。
「見取り図」
圭が担いでいたバッグから紙を取り出した。それを受け取る。
「令子の荷物まとめるから、その間リビング探してて。リビングは、そこね」
入ってすぐ右手にある部屋を指差した。
履いていたスニーカーを脱いで、中に入った。圭も続く。
「お邪魔しまーす」
「誰に言ってんだよ」
「一応他人の家でしょ。細かい男ね」
理緒の横を通って、圭がリビングに入っていく。
「ちょっと、バッグ」
「ああ、忘れてた」
「荒らさないようにね」
「努力はするよ」
バッグを受け取ってから、二階に向かった。令子の部屋は二階に上がったすぐの所らしい。
令子の部屋に入った。明かりをつけて、見渡す。綺麗に片付いている。
余分な物はあまりなく、寝るためだけの部屋という感じだ。令子の性格が出ている気がする。
「んと、下着と服か」
クローゼットを開けた。適当に服や下着を選んで、バッグに詰め込んでいく。
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