記憶

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バッグに洋服と下着をある程度詰め込んでから、再びリストに目を落とす。 「後は化粧品と洗面道具か」 明かりを消して部屋の外に出た。不気味なほど静まり返っている。 「洗面所にあるみたいね」 リストを見ながら呟いた。 階段を降りて、見取り図を見ながら洗面所に向かう。 化粧品と洗面道具を一通りバッグに詰め終わって、一息ついた。 「なんか泥棒みたい」 重くなったバッグを抱えてリビングに向かう。リビングでは圭が明かりもつけずに棚の引き出しを調べていた。 「明かりくらいつけなさいよ」 電灯のスイッチを押した。外は少しずつ薄暗さを増している。 「見つからないの?」 「ああ」 「あたしお母さんの部屋探すね。圭さんはここ探してて」 先ほど通った廊下を戻って、家の奥へ向かった。 見取り図では、洗面台の反対側が令子の母の部屋になっている。 令子の母の部屋の前に立つ。扉を開けた。 六畳ほどの和室が目の前に広がった。令子の部屋と同じで、余分なものがなく片付いている。 「失礼しまーす」 声を上げながら中に入った。すぐに電灯のスイッチを見つけ、それを押す。 「なんか、やな感じ」 人の家。しかも今は亡くなった人の部屋だ。 後ろめたいような、怖いような感じがする。 タンスの中や、棚の中を探す。 見つからない。 圭もリビングから出たような気配はない。まだ見つかっていないのだろう。 ふと棚の上に、写真を見つけた。制服を着た令子と、母親らしき人物写っている。 「お母さんも美人なんだね、やっぱり」 開けていない最後の引き出しを開けた。書類や封筒の類が入っている。 その中に四つ折りにされた、一枚の紙を見つけた。 紙を開く。中にはちょっとした文章と四桁の数字がボールペンで書かれていた。紙の端は擦り切れて破れたりしている。 「これね」 それをまた折り畳んで、ジーンズのポケットに入れた。 引き出しを閉じてから明かりを消した。部屋を出る。 「失礼しました」 誰に伝えるというわけもなく言った。リビングに向かう。 「圭さん、見つかったよ……、って何してんのよ!」 圭が座り込んで煙草を吸いながら、引き出しの中身をひっくり返していた。 「この方が見つけやすいだろ」 「違うわよ、煙草!」 「ちゃんと灰皿も持ってきたし」 圭が携帯灰皿を持ってこちらに見せつける。理緒は思わずため息をついた。
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