記憶

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三人分のペスカトーレを作って、テーブルで食べた。 「美味しかった。理緒やっぱり料理上手だね」 令子が笑顔を浮かべる。 「へへ。ありがと」 食器を令子と二人で洗ってから、ソファーに腰を下ろした。 「あれ見ようぜ」 圭が煙草を取り出しながら言った。映画の事だろう。 今は令子を襲った犯人を追っている時だ。その余裕がどこから出てくるのか。 圭らしいと言ってしまえば、それまでなのだが。 「そう言えば圭さん、最初文句言ってた割には、結構楽しんでたね」 「まあ、そんなもんさ」 三人で三部作の映画の最後の一本を見始めた。 あっという間に、映画は終わった。楽しい時間は、過ぎていくのも早い。 「面白かったね」 「まあ、そこそこ」 圭が煙草に火を灯す。 「圭さんが一番食い入るように見てたけどね」 「そうだったかな」 圭がわざとらしく肩を竦めた。 それからシャワーを浴びた。熱いお湯が、一日の疲れをほぐしていく。 その後に令子がシャワーを浴びた。 その間圭はずっとメモを見つめていた。理緒もメモを何回か読んだが、あまり意味が分からなかった。 その内、令子がバスルームから出て来た。 圭はメモを見るのはやめて、今度は天井を見上げている。 「あたし達、もう眠るね」 「ああ」 あまり関心の無さそうな返事が返ってきた。 令子と二人で寝室に入る。すぐに明かりを消して、布団の中に潜り込んだ。 「令子のお母さん、綺麗な人だったね。令子と似てた」 「写真見たの?」 「うん、お母さんの部屋にあった。制服着た令子も可愛かったよ」 「あの写真かな」 暗闇の中で令子が動く音が響く。 「体弱かったのに、毎日遅くまで内職してた」 「そうなんだ」 「後でわかったけど、お父さんから毎月十分なくらいお金振り込んで貰ってたのに、それでも働いてた。貰ったお金はほとんど貯金してあった」 令子の母の性格が垣間見える気がした。 「風邪引いてたのに無理してこじらせて、肺炎になって倒れちゃって。入院してからはいっつも私に謝ってた。ごめんね、ごめんねって、何度も」 令子が一つ大きな息を吐く。 「お母さんが死ぬ直前に初めて、お父さんの事聞かされた。それまでは死んだってずっと言われてた」 「そうなんだ」 「ちょっとショックだったけど、気にはならなかったな。お母さんは入院して一か月くらいで、最期はほんと眠るみたいに死んじゃった」
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