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◇
落ちていたコンビニの袋に伸ばした指先が触れた。そのまま引き寄せて、持ち上げる。
圭は袋の中から、煙草を取り出した。カートンの包み紙を適当に引き裂いて、一箱手にする。
箱を開けて一本取り出し、火を灯した。
一度煙を吐き出してから、体を起こした。コンビニの袋の中を覗き込む。
クラブハウスサンドにチーズバーガー。見慣れたものだった。
「悪くない選択だな、頼久君」
向かいのソファーに腰を下ろしている頼久に、自分が出来うる最高の笑顔を向けた。
「理緒ちゃんは? いつもなら居てもおかしくない時間だろう」
頼久には圭の言葉を気にする様子もない。
「理緒にもいろいろあるさ」
煙草をくわえたまま、クラブハウスサンドの封に手をかけた。
くわえていた一本目の煙草を灰皿に押し付ける。吸い殻で溢れた灰皿から、白い灰がこぼれた。
手にしたクラブハウスサンドを口にする。ゆっくりと、体を目覚めさせるように口を動かす。
そうしている間、頼久は口を開かなかった。
自分の咀嚼の音と、下のカフェから響いてくる女子大生の笑い声。それだけが耳に響く。
クラブハウスサンドの最後の一片を口の中に放り込んだ。
「それで、今日は何の用だ?」
チーズバーガーの封を開けながら、話を切り出す。
「食い終わってからでいい」
「そうか」
許可が出たので、今度はチーズバーガーにかじりつく。
このコンビニのチーズバーガーは、意外に美味い。少なくとも、有名ハンバーガーチェーンのものよりはいい味を出している。
包装がビニールではなく紙であれば、完璧だ。レンジで温めると、ビニールについた水滴でバンズの食感を損なってしまう。
「食い終わったようだし、話を始めようか」
ちょうど最後の一口を飲み込んだ所で、頼久が口を開いた。
「どうぞ、始めてくれたまえ」
二本目の煙草に火を灯す。
「くだらん話だろうが、聞いてくれ」
「ちょっと待て、頼久」
思わず、頼久の言葉を遮る。頼久が怪訝な表情を浮かべた。
「何だ?」
「話の頭にいきなりくだらない、なんて。本当にくだらなく思えてしまう」
頼久がわざとらしくため息をついた。
「なら言うが、話の腰をいきなり折るな。お前の悪い癖だ」
「これは失礼」
肩を竦めてみせると、もう一度頼久が息をはいた。
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