依頼

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「お邪魔してるよ」 「いえいえ、いいんですよ」 理緒が笑顔を弾けさせる。 理緒は町を歩けば結構な人間が振り返るほどの美人だ。細身の体のラインの美しさが更にそれを際立たせる。 よく笑うし、モデルなど向いているのではないかと圭は思っていた。ただ本人にその気がない。 「圭さん、私もお客さん連れてきたんだけど、大丈夫かな? 友達なんだけど」 「美人な娘かな?」 「うん、美人だよ」 「頼久と話すよりは楽しそうだな」 頼久に視線を向ける。 「いいんじゃないか。一応話は終わったし」 頼久が理緒にはわからないくらいのため息をついた。 「じゃあ下に待たせてるから呼んでくるね」 明るい響きを残して、理緒がドアの外に消えた。 「諦めたかな、頼久君」 「まさか」 頼久のあくまでも真面目な表情は崩れない。圭はわざとらしく肩を竦めてみせた。 頼久が露骨にこちらを見続けている。視線を合わさないように、圭は天井を見上げた。 しばらくすると階段を上がる足音が響いた。響く音が、上がってきているのが二人だと言う事を告げている。 「とりあえず、一時休戦といこうじゃないか」 「まあ、仕方ないな」 頼久の目は、決して諦めてはいない。頼久に無理矢理頼まれていつも割に合わない仕事をやっている。 今回だけはそうするまいと心に誓いながら、煙草を味わった。 外のドアが開く音がして、続いて木製のドアが開く。 理緒がまず姿を現す。その後ろから、お客さんらしき人物が出てきた。 理緒とはタイプが違うが確かに美人だ。冷たい感じの美貌が、若い肌から溢れ出している。 ふと頼久に目をやると、口をあんぐりと開けていた。 「なんだその間抜け面は?」 見ると、理緒が連れてきたお客さんも、驚いたように口を開いている。 嫌な予感がした。 そんな偶然が起きうるはずがない。心に浮かんだ考えを否定しながら、圭は口を開いた。 「進藤令子ちゃん、だったりしないよね」 その娘は答えずに、理緒が笑顔で答えた。 「やだ。なんで圭さん名前知ってるの? 知り合い?」 「いや、全然」 今度は自分が間抜けな顔をしている事だろう。 頼久が内ポケットから携帯電話を取り出し、通話を始めた。 「俺だ。思ったより長くなりそうだ」 どこからどう考えても、頼久にとって都合の良すぎる偶然だった。仕方なく圭は話を聞くことにした。
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