394人が本棚に入れています
本棚に追加
それから私は、仁美さんの横に座りました。不思議なことに仁美さんに対する欲情の気持ちは消え失せてしまっていたのです。
同じ女性として――そんな感覚だったように思います。私はバーで仁美さんとたどたどしくしゃべっていた志田弘実としてではなく、小悪魔アゲハのモデルにでもなったかのように実に堂々と仁美さんと話をしていたのでした。
「弘実ちゃん。いい気分になれた?」
「ええ。いい気分よ」
いつの間にか口調まで変わってしまっていたのです。
それから私は、お化粧の仕方、女性らしい話し方などを一通り教えられ朝を迎えたのです。
「それじゃ弘実ちゃん、またね」
朝になり仁美さんと別れた私は、その姿のまま電車に乗りました。
始発電車に乗る私の姿に、男たちの視線を感じました。それは異様だったからではなく、魅力的だったからに違いありません。
その証拠に、電車を降りてすぐのところでナンパされたのですから。
もちろん男性にです。
最初のコメントを投稿しよう!