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僕が彼女の声に返事をするということは、容易なことだった。 でも、それをしなかったのは、自分が返事をしたら、 彼女が語りかけることを、止めてしまうのではないかと思ったからだった。 僕は、出来ることなら、彼女の声をずっと聴いていたいと思っていた。 そんな ある日のことだった。 その日は、いつもと様子が違っていた。 灼熱地獄だった僕の部屋が涼んでいる。 クーラーが直ったのだ。 「クーラーは人類の宝だなぁ」 なんとも間抜けな言葉を呟いた後、そろそろあの時間だということに気が付いた。 トランシーバーを手元まで持ってきて、それを待つ。 いつもより 少し遅れて、それは始まった。 「ジー……応答願う、応答願う、こちら月の裏側、応答願う」  
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