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結局水樹優と話が出来たのは放課後だった。彼女は校門のところで俺を待っていた。
「単刀直入に訊こう。どうして俺の名前を知ってるんだ?」
「……嘘でしょ?」
演技ではない。本当に驚いた顔だ。そしてどこか、悲しげだ。
「そっちこそ、どうして『みずきゆう』の名前を覚えてないの?」
俺をからかうために適当なことを言っているという可能性を疑う前に、俺は自分の記憶の闇を探った。
まずはこいつの顔――気のせいではなく見たことがある。多分、だいぶ昔に。次に、この名前――『みずきゆう』という名を、頭の中で何度も繰り返す。検索の結果何かがヒットしたようだが、それが何だか分からない。もう一押しで思い出せそうな……。
「お父さんはね」
いきなり家庭事情か。
「仕事の都合であちこち飛び回ってるの。ここに来たのも、それが理由」
「ふーん、大変そうだな」
「ねえ、お母さんは元気?」
「元気だよ……って何でお前がそんなこと訊くんだよ」
「お父さんは元気だから心配しないでね」
「人の話聞けよ!」
「いい加減思い出してよ! お兄ちゃん!」
そう叫ぶなり、走ってどこかへ行ってしまった。呆然と俺は立ちつくす。
さっきの言葉をかみしめてみる。すると、芋づる式に記憶がよみがえった。
十年という時間は、決して短い時間ではないと感じた。自分の妹のことを、かつて自分が違う姓を名乗っていたことを、もう二人の家族の存在を思い出すのに、こんなにも時間がかかってしまったのだから。
明日会ったら、あいつに笑顔で「おはよう」って言ってやろう。
まったく、時間ってのは残酷だ。
作品コメント:あえて中性的な名前にしたのに全く生かし切れませんでした……
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