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序章~ダラス山
静寂の中、突如一陣の風が吹き抜ける。
次の瞬間には豪快な衝撃音が辺りに響き渡った。
「いってぇぇぇぇ!!何するんだよ!」
頭の激痛に座っていた岩から転げ落ちながら、フェイトは何とかこの痛みをもたらした人物を見上げる。
「何をするじゃない!見当たらないから何をしているかと思えば!やっぱりさぼっておったな!」
手にする木刀の剣先をフェイトの目前に突き付け、イカツイ顔をした体格のいい男が怒鳴り散らす。
フェイトはすぐに怒りの表情から恐怖の表情に変わった。口元が引きつり、いやな汗が頬を伝う。
「げ……ゲン師範。これはその……」
「言い訳はいらん!さっさと戻ってみんなと修行せい!!」
どもったフェイトにゲンは一喝。そしてもう一度一陣の風が起こる。しかしこの時には衝撃音はなかった。
何故なら……すでにフェイトは訓練場に向かって駆け出していたから。
「先に戻ってま~す!!」
もはや遠くから聞こえるフェイトの言葉に半ば茫然としながら、ゲンは先程までフェイトが座っていた岩を見、さらにその先を眺めた。
「まったくあやつは……。それにしても……何とも歪な世界だのぅ……」
ため息を漏らしつつも眺める先には、底の見えない深淵の闇が漂う谷が広がっていた。空を見上げてみる。するとそこには、一つの影が飛来してくる。
「あれは……鳥か?」
この鳥が、フェイトを、世界を変える道標となることを、今はまだ誰も知らない。
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