夜のレッスンルーム

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『手だけは清潔に』 この男が初めてここを訪れた時、私と交わした取り決めだ。 私としては、度を越していなければ、服装については汚れていても構わないのだ。 だが、汚れた手で鍵盤を触られるのだけは、これでもピアノ講師の端くれとして許したくはない。 「オッケー、それじゃレッスンを始めましょう。えーと……」 「……そろそろ名前くらい覚えて欲しいな」 ……ああ、ごめん。 たしか竹下さん……だったよね? 「そうだよ、ヒドいよ恵美ちゃん」 口を尖らせた竹下は、何かをブツブツと呟きながら、ピアノの横にあるテーブル席に座った。
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