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『合コンで運命の出逢い☆』
――そんな事は幻想だと、知って久しい。その場を楽しみ一時の快楽を共有する相手が時々見つかる、合コンはその程度のものだといつの間にか思うようになっていた。それでも一縷の望みは捨て切れずに、イイ服を着てイイ靴を履いて髪を立て、万全の準備を整えて今夜も合コンに挑む。
そんな怜史の目の前に現れた、一人の男。名前は江藤榛名(はるな)といった。
モノトーン調に統一された店内は適度に薄暗く、うるさ過ぎず静か過ぎないお洒落げなボサノバ音楽なんかが流れ、『モデル男子との合コン』の名に相応しい雰囲気の店が今夜の会場だった。
女の子寄せの一番人気を誘い損い、今日はいつもに増して期待はしていなかった。それでも少しずつ集まりだしていた面子を、怜史は一人一人順を追って値踏みするように、でもどこか焦点の定まらない視線でぼんやりと眺めていた。
「よ、怜史。今日の意気込みは?」
「おー、オス、佐伯。やる気は満々すよ~」
やってきた友人の佐伯に声を掛けられ、冗談口調で返す。その佐伯の横に、怜史の知らない男が居た。怜史の視線に気付いてああ、と佐伯が彼を手で差した。
「こちら江藤榛名さん。藤希の穴埋めに来てもらったの」
佐伯の紹介で江藤も軽く会釈する。
――ばくん。
彼を見た瞬間、怜史の全ての動きが止まり心臓だけが跳ねた。あっという間に榛名以外のものが色褪せる。さっきまで値踏みしていた女共の顔は全員へのへのもへじに変貌を遂げた。
――ありえねーくらいに超好みなんすけど……。
プラチナブロンドにまで染め抜かれたベリーショートの髪、すっと通った目鼻立ちは涼しげで、冷気すら漂ってきそうなくらいで。着ている服と言えばごくシンプルで、洗いざらしにも見える白い襟付きシャツとデニムに少しのアクセサリーを合わせているだけなのに、全てが選び抜かれている事が見て取れた。ふと目が合うと、カラコンなのか、紫色の瞳に吸い込まれそうになる。
「ど……も。小谷怜史っす……怜史って、呼んでもらえれば……」
その紫色の瞳に魂ごと吸い込まれながら、怜史はなんとか自己紹介した。
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