死の瞬間に何を思う

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――遅いな  俺が今いるのはとある駅前広場。  沢山の人で溢れるこの場所で、俺は友人を待っている。    既に待ち合わせの1時を20分は過ぎている。一応メールはしたが返信は無し。電話をかけてもあのお決まりのアナウンスが流れるだけ。  おそらく、友人は地下鉄に乗ってここまで来るからだと思う。それにしたってメール位出来そうなものだ……まあ車内がギュウギュウに混んでいたら出来ないかもしれないが……。  ふと、広場の電柱に寄り掛かっている俺は、目の前の建設中の巨大なビルを見上げた。  なんでもこの馬鹿でかいビルは、ビル全体が一つのショッピングモールのような物になるらしい。最近見たニュースでそんな事を言っていたのをボンヤリと思い出す。  左手にした時計を見る。  長針は、もうじき6を指そうとしている。  俺はなんの変哲も無い二十歳の学生だ。それなりの中学高校を出て、それなりの大学に入り、友達と遊んだりバイトしたりしている。 一応夢もある。  その夢の為の努力もしてるし準備もしてる。 ――毎日は充実って感じだな。  だれに言う訳でもなく。俺はそんな事を考えていた。  と。 『キャー』  俺の後方から女性の甲高い悲鳴が聞こえた。 『大丈夫か?!』 『コンクリが落ちてきたぞ!』  辺りは騒然となっている。  俺のすぐ側を通ったおばさん二人組の会話が耳に入る。 『古いビルからコンクリートの塊が頭に降ってきたみたいよ』 『ツイてないわねぇ』  「ツイてない、か」  思わず呟いた。確かにそうだ。  ツイてないな。  ものの5分もしない中に救急車が来て、男性が運ばれ。あっという間に駅前はいつもの喧騒を取り戻していく。もう誰一人、先ほどの男性の事を思っている人はいないだろう。  そんな物だ。  ニュースで誰かが殺されたり事故で死んでも、他国で戦争が起きて、そのニュースを見た瞬間は同情したり痛ましい気持ちになるかもしれない。けどそんなのは、5分も経ったら皆忘れるだろう。  それが当たり前だ。  そんな物だろう。 と
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