歩く少女は夜闇に抱かれ

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  オリヴァー  「ヴァンパイア…だと…」   エメリッヒ  「ええ、ヴァンパイアです。我々特務、長年に渡っての探し者。それが、ここハーメルスに在ると云う確証が掴めたものだから、私がここを訪れたと云う次第なんだよ」   オリヴァー  「公国は、まだそんな伝説を信じていたのか……」   エメリッヒ  「伝説、ねぇ。まあしかし、確かに実在すると云う目撃証言は数少ないし、それも誰かの妄言なのかも知れない。だが、ここには在るのだよ。我々公国が長年求め続けた力の根源がね」   オリヴァー  「力……? 公国は今、何を求めていると云うのだ……」   エメリッヒ  「さて、それは今の貴方には関係の無い事なのでは? 貴方はもう、過去の“エランベルク”なのだから」   オリヴァー  「く……その話は止めろ……虫酸が走る……私は、レグラントだ……」   エメリッヒ  「ええ、重々承知しているとも。貴方が席を空けてくれたお陰で、今の私が居る。まだ、“オリヴァー=ド・エランベルク”だった頃の貴方が逃げ出してくれたお陰で、ね」   オリヴァー  「本当に止めてくれ……私は、もう悪魔に憑かれた人間では無いのだ」   エメリッヒ  「そう、ですか。話が逸れたね。今の問題は、ヴァンパイアがこの地のどこに居るのかと云う事だ。貴方は、存知無いので?」   オリヴァー  「知っていたら、真っ先に話している。貴様を一刻も早く、この町から出て行かせる為にな」   エメリッヒ  「どうも我々には悪辣な印象しか無いらしいが、それは置いておくとしてだ」   オリヴァー  「何だ……」   エメリッヒ  「ヴァンパイアと云う存在がこの土地で語られ始めたのは、今から約400年程前、この欧州大陸に大国と呼ばれる国家が形成され始めた頃と文献には有ります」   オリヴァー  「…………」   エメリッヒ  「そして丁度その当時、ドーバー海峡を挟んで大英帝国と大ウイユヴェル王国、これは今のフランス共和国とが大陸の覇権を握る為に永きに渡って血みどろの戦いを続けていた最中だった。詰まり――」   オリヴァー  「百年戦争か……」   エメリッヒ  「ご名答。そして、その当時の文献に興味深い一節が有るのです」   オリヴァー  「それが、ヴァンパイアに関する物だと?」   エメリッヒ  「公安は、そう睨んでいる」   オリヴァー  「どんなものだ……」  
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