歩く少女は夜闇に抱かれ

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  エメリッヒ  「その文献には、英国人兵士の手記には、こう記載されていたのだよ―― 『早くここから出してくれ。一刻も早く、奴が私の所に来る前に。化け物だ。ウイユヴェルには化け物が居る。誰にも殺せない。何人も殺された。次は、きっと私の番に違いない……おお神よ、早く、早くここから出して下さい…… 1392年 葡萄月 14日 ウイユヴェル王国北東部 ハーメルスにて』 と、こんな具合に」   オリヴァー  「それを、信じろと……?」   エメリッヒ  「いえ、別に。貴方が信じようが信じまいが、私たちには一切関係が無い」   オリヴァー  「確かにハーメルスには吸血鬼伝説が有る。が、私を含めた町人の殆どは、夜泣きする子供を泣き止ませる為の口実位にしか感じていない」   エメリッヒ  「詰まり、信じている者は、この町の中でも極く稀なので?」   オリヴァー  「ああ、本気で信じてる人間を、私は知らん」   エメリッヒ  「成る程……よく分かりました。今日はこれ位にしておきましょう。まだ私自身もこの町に来たばかりだし、捜索にはまだ早い。私は町の宿に居るから、何か有れば連絡を」   オリヴァー  「ああ……」   エメリッヒ  「では、貴重なお話有難うございました。レグラント候」 退室。   オリヴァー  「…………くそ……」 忌々しそうに。  
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