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「……付き合って、くれないかな」
大学のすぐ近くにある、ちょっと穴場の喫茶店。
思ったよりも快く呼び出しに応じてくれた彼女は、涼しげなワンピースを着ていた。
そうか。もうすぐ夏だもんな。
今フラれて夏休みって、ちょっと寂しいものがあるな。
そんなことを思ったけど、今さら引き返すわけにもいかない。
彼女のことを初めて見かけたのは去年の春だったから、片思い生活ももう一年になる。
しかし今日でそれも終わり。
小さく深呼吸をして、想いを打ち明けた。
きっと困った顔をされる。
覚悟の上ではあるけど、やっぱりちょっと悲しいかな、なんて思っていたら。
「いいよ?」
……ハイ?
今、なんかすごく都合のいい幻聴が聞こえたような。
テーブルの上のコーヒーカップから恐る恐る目線を上に移すと、彼女はキョトン、としてからにっこり微笑んで。
「え……あ、シュ、え……?」
「……?『シュ』?」
願ってもない返事ではあるけど、あまりに簡単すぎないか?
てゆーか、同棲中の彼氏はどうなるわけ?
昨日も楽しそうに彼のことを話していたじゃないか。
「あ、の……さ。付き合ってる人、いないの?」
「付き合ってる人って?」
「つまり、彼氏」
「いないよ?」
どうしてそんなことを聞くの?と返されて、僕は混乱してしまった。
彼氏はいない?じゃ、「シュウ」は何なんだ?
もしかして嘘ついてるんじゃ……いや、でもここで彼氏がいることを隠す必要がなくないか?
「でも『シュウ』って人と同棲してるんじゃ……!」
しまった。口が滑った。
絶対に言うまいと思ってたのに。
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