序 章

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「こんな夜更けに一体何の用です、ワイズメル卿」  自室の扉を細く開けた少女は、その隙間から、目の前の四十代に差しかかろうという小太りの男に冷たく言い放った。備えられた銀の燭台が照らすその顔は、隠さず嫌悪の色を浮かべている。 「そんな他人行儀な。ルカ、と名をお呼び下さいと何時もお願いしているでしょう、姫」 「きゃっ!」  男、ルカ・ワイズメルは、招かれざる客に困惑する少女に構わずぐい、と扉を押しやり、部屋の中へと押し入って来た。軽く突き飛ばされた格好になった少女はバランスを崩し、背後のテーブルに尻餅をついてしまう。 「なっ、何と言う無礼な!」  当然、少女はいきり立った。 「いくら貴殿が私の婚約者だからといって、そう好き勝手に寝室に……んん!」  しかしルカはそんな彼女の肩にいきなり手を突き、体をテーブルに勢い良く押し付けたかと思うと、そのまま強引に口付けて来た。 「――はっ、や、止めっ……! んうっ!?」  少女はありったけの力を込めてルカを押し返そうともがいたが、所詮女の力では覆い被さる男の力に敵う筈もない。出来る抵抗と言ったら顔を逸らす事位だったが、それも顎をつかまれた事によって無力化されてしまう。  そのまま口内まで蹂躙する口付けは、しつこく続いた。
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