序 章

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 これでは呼吸が出来ない、と焦った少女は、今度は両足をバタバタと激しく上下に動かす。すると、ようやくルカが顔を離した。 「落ち着きのない方だ。少しは雰囲気作りに協力していただきませんと」  少女の体の自由は奪ったまま、ルカはニヤリとその醜い顔を更に醜く歪ませた。そしてはぁ、と喜悦の溜め息を漏らして来たのだが、少女はそのきつい口臭に吐気をもよおし、思わず涙目になる。 「ふふっ、可愛らしい」  しかし何をどう良い様に解釈したのか、そんな少女の様子を見たルカは満足そうに呟いた。 「そう、貴方も知っての通り、私は今日……おっと、正確には昨日ですかな。貴方の婚約者として正式に認められました。ですから、ですからもう貴方は私の物――!」  こんな台詞を言い切るか切らないかという所で、再びルカが、ナメクジが二匹貼りついているかの様な唇を押し付けて来る。少女は唇だけでなく首筋まで這い始めたその感触の、あまりの気色悪さに悶えた。全身の肌は嫌悪に粟立っている。  この、必死に身を捩って逃れようとし続けている少女を、ルカはより強い力で押さえ付けて来た。
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