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【one】
風のない空
少女は窓を開け
空を見渡した
風のない空に
入道雲がどっしりと
腰を下ろして視界を被っていた
何故だろう
音もなにも聞こえない
水色と白の境目は
くっきりとしている
ふと、
真後ろにある
部屋の扉に気配を感じた
ありきたりだが
誰もいない
電気などを見てから
暗い場所を見ると
赤とか白いチカチカが飛ぶことがあるが
それの向こうに
開いたままの扉があるだけ
すると
風のないはずの部屋の
カーテンが外に向かって
大きくなびいた
少女は
ハッと
外を見た
白い雲に映る
巨大な顔
暗い場所を見てから
白い壁などを見ると
残像が映る現象があるが
それに近い
ハッキリとした映像だった
その顔は
青空と雲の境目から
少女を覗きこんで
笑っていた
少女を見つめる瞳も
くっきりまつ毛までわかる
しかもその巨大な笑顔は
瞬きをした
少女は
もう一度
振り返ることができない
確かに
背後の気配が
雲に写っているようにしか見えない
夏の真昼の出来事だった
背後の気配は
少女の肩に
身震いとして
何かを語りはじめる
といった空気で
少女は体の力を失った
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