序章--ある農民の述懐

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邑の中心にある集会所で長と邑の主だった面々が、一昨日の報せを受けて顔を突き合わせて思案していた。 「ふむ……」 この邑を拓いた若い竜人の長は、唸るばかりだった。彼は農耕、畜産には造脂が深かったが、チャチャプー族のことは彼の師から口伝で聞いたのみだった。 「長、ハンスの倅が戻りました……。おめぇの口で言え」 ハンスの倅は馬を駆けさせ半日、隣邑まで様子を探りに行って帰って来たのだった。 「隣邑は、死んでいました」 車座になっていた一同はどよめいた。どよめきはうねり、めいめい勝手な話を始めた。 「静まらんか!」 長がそう喝を入れるまで、一同は話を止めなかった。 「続けなさい」 長は青ざめた顔で床を見つめる青年に話すよう促した。 「蔵は壊され、家畜は消え、家は燃えて崩れとりました」 「邑人は?」 長が一同に先んじて、問い質した。 ハンスの倅はかぶりを振った。 「姿は見えませんでした……」 一同は不安で言葉を失った。次は我が身なのだろうか、と。
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