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もう一度軽いキスをして、アレグレータは笑顔でシールズに手をふった。
「気をつけて」
シールズも笑顔でアレグレータを見送った。
それがアレグレータとの最後の会話だった。
それから一年の月日が経ったが、あの夜以来アレグレータが『歌姫の魔力』亭に戻ってくることはなかった。
シールズが声で奏でる歌も、希望のこもった歌から悲しみの歌へと変わっていき、16歳の誕生日を迎えた日、シールズはとうとう歌姫のドレスを脱ぐことにした。
アレグレータにどんな不幸があったのかはわからなかったが、自分の愛した人が歩んだ戦士としての道を歩みたい衝動にかられたのだ。
シールズはさすがに父親であるマスターに反対されると思っていたが、マスターは、毎日生気のない状態で舞台に上がるよりも自分が納得できる道を進むべきだと賛成してくれた。
(まさか生きてるとは思っていないけど……、あんたの感じた世界をあたいも感じたいんだ。だからあんたの剣お借りします)
シールズはアレグレータから預かった長剣を腰に吊し、アレグレータと同じ中型の盾と鉄鎧を装備して、歌姫としてではなく戦士としてカウンターに座った。
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