0人が本棚に入れています
本棚に追加
…何故思い出せないんだろう。
僕は必死に記憶を探っていた。
頭の何処かにしまってあるはずなのに。乱雑に整理された記憶を掻き分け、一つ一つを確かめながら選別する作業を続ける。
これじゃなぃ……
これじゃなぃ……
これじゃなぃ……
…………………ただ虚しく時だけが過ぎていく。もうだめだ。
また明日にしよう。僕は作業をやめ、ゆっくりと目を閉じた。
祖父の家は旧華族の血筋であり、大きな家に住んでいた。
歴史のある古い屋敷なだけあって、外壁一面に植物の蔦が這い、不思議な静寂に包まれた不気味な洋館であった。だがガレージには高級車が並び、豪華な家具、大きな庭、その庭には番犬としてだろうか…二匹の犬が放し飼いにされていた。
小さめな柴犬とかなり大きいラブラドールだった。
柴犬のほうはとても人懐っこい性格で、人影を見ると尻尾を振ってかけ寄ってくる。とても番犬とは思えない。名前もこれまた番犬らしくない「ポチ」。
…ラブラドールのほうは温和で賢い性格の犬だけあって、じっと祖父の足元に座っていた。まるで漆黒の闇を思わせるような光沢のある毛並み…そこには触れられない何かがあった。ただ見入る事しかできなかった記憶がある。
ふと目が覚めた。
やっと思い出した……そうだ……その見事な毛並みから付けた名前は……クロ。
ポチ…とクロ。
fin m(_ _)m
最初のコメントを投稿しよう!