Chap1.ホットケーキ

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「ねぇ、ホットケーキ焼いたんだけど…。」   ドア越しに呼びかけてみるが返事はない。 まだ眠っているのか、それとも相当機嫌を損ねているのか。 もし後者ならそれは当然の事だ。 …わかってる、悪いのはオレなんだって事くらい。 だから、こうして少しでも彼女の態度を和らげようと少し焦がしてしまったホットケーキを片手に、頑なにだんまりを決め込むドアの向こうに対して、半ば泣きを入れるような形で呼びかけている。 …が、この状態を打破するどころか、解決の糸口がまるで見つからない。   (…今回ばっかはこの作戦じゃムリかもな。)   たまらず「ふっ」と短いため息をこぼした。   (いつもならホットケーキ一つで万事解決、のはずなんだけど…。)   陳腐な発想というか、芸がないのは解っているし、別に彼女を馬鹿にしているわけでもない。 オレにとっては『最後の手段』なんだ。 どんなにご機嫌斜めでも、ホットケーキを焼いてあげればたちまち笑顔になり、「しょうがないなぁ~。」なんて言って許してくれるから…。 ホットケーキが大好きで、子供っぽくて、かわいい、そんな年上の彼女。 その彼女がご立腹な理由…それは昨夜の喧嘩の原因でもあった。
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