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ある日俊(トシ)が泊まりに来た。
俊とは中学からの悪友で、福岡少年院退院後から急によく遊ぶようになった。 それからは親友と呼べる仲になった。
夜中に俊が「腹減った」と言った。 近くにコンビニがない上に、長く急な坂道の頂にある家からは、ふたりとも出る気にならなかった。 だからダイは焼そばを作ってやることにした。
ダイの部屋は二階の一室にあった。 階段を降りて左手にあるドアを開けると居間がある。 八畳くらいの居間を挟んで、向かいの襖(フスマ) の奥に祖父母の寝室がある。 居間を左に抜けるとキッチンに繋がる。
フライパンに油を敷いたとこで現れたのは、ばぁちゃんではなくじぃちゃんだった。
「ダイ、お前何しよっとか!」
「見て分かろうもん。 焼きそば作りよったい!」
じぃちゃんは耳が非常に悪かった。 並の大きな声じゃ聞こえやしない。
「はぁ!? お前こんな夜中に何コソコソしよーとや!!」
「別にコソコソしよらんかろーもん!! じぃちゃんが耳悪いけん聞こえんだけやないとや!!」
何でこんなことでいちいち喧嘩になるんだろう。 ダイはもどかしかった。 自分のせいだと分かっていても、心は拒むばかりで口が言うことを聞かない。
どれくらい言い合いを続けただろう。下らない意味のない口喧嘩の末、じぃちゃんが包丁を取りダイの横腹に突き付けてこう叫んだ。
「じぃちゃんはお前を殺して刑務所に入ってもよかとばい!!」
包丁を握るじぃちゃんの手に力が入った。 ダイの横腹に切っ先が5センチくらい刺さった。
「殺すならはよ殺せや!! お前頭おかしくなったっちゃないとや!! 刑務所でも精神科でも行ってこいや!!」
ずっと二人の言い合いを聞いていたばぁちゃんもヤバいと思ったのか、寝室から飛び出すなり走ってじいちゃんのとこまで来て
「お父さん何しよーとね!! あんた自分の孫ばい!! しっかりしんしゃい!!」
と怒鳴って包丁を取り上げた。
「ダイちゃんははよ二階に戻りんしゃい。」
「焼きそばが…」
「ばぁちゃんが持ってっちゃるけん心配せんでよか。 はよ二階に上がりんしゃい!」
二階に戻ったダイは、下の騒音を聞いて心配していた俊に一部始終を話した。
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