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ばぁちゃんはやっぱり優しかった。 今泉を泊める事を許してくれたようで、じぃちゃんには内緒のまま黙って見ていてくれた。
一週間位経った頃だろうか、今泉とばぁちゃんは仲良くなっていて、よく話すようになっていた。
今泉が家出してきた理由は泊まりに来た翌日に聞いた。 ウイスキーを呑みながら、初めて今泉の涙を見た。 いつも笑っていて、何処に行ってもムードメーカーだった今泉。 真面目な顔なんて見たことがなかった。 その涙はダイのの胸に深く響いた。 守ってやりたいと思った。
ある日、何度も何度も繰り返したお願いの末、ダイばぁちゃんに携帯を買ってもらった。 そして今泉のも。 ダイは今泉を心から信用していた。 絶対に払うと誓う今泉をばぁちゃんも信じてくれた。
そんなばぁちゃんの優しさを裏切る様に、ダイと今泉は毎日シンナーを吸っていた。 ばぁちゃんは鼻がひどく悪かった為、部屋に来たって気付かなかった。 じぃちゃんが塗装工を営んでいたせいで慣れていたのかもしれない。 おかげで二人は誰にも見つかる事なく、シンナーをタダで吸うことが出来た。
しかしそんな楽な毎日が壊れるのは時間の問題だとダイは分かっていた。 今泉が泊まっている事がじぃちゃんにバレて、今泉は出ていかなくちゃならなくなった。 ダイは必死に引き止めた。 今の今泉がこの家から出てしまえば、行くあてもなく、頼る人もいなくなって、きっと携帯代も払えなくなって、連絡が取れなくなって、それから、それから…。
そんなダイの気持ちを理解した上で、今泉は荷物を持ってばぁちゃん家を後にした。
「お前行くトコなかろーもん!」
「大丈夫やって。 古いダチと連絡が取れて、泊めてもらえることになったけん。 心配せんでいいよ」
「今泉…」
ダイにはそれが嘘だと分かった。 でもどうしようもなかった。
「ちゃんと連絡しろよ! 消息不明とかなったら許さんけんな!」
「分かっとる! ありがとう!!」
小さくなっていく背中を見つめながら、ダイは妙な胸騒ぎを覚えた。
そしてこれが今泉との最期になるなんて、ダイには知る由もなかった。
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