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教室を飛び出したと同時に叫んだ彼の声に、脆いあたしの決心は鈍りそうだった。
「真由利っ」
「離し…っ……!」
掴まれた腕を振り払いたいのに、びくともしない。
どうして、追いかけて来たりするの。
あの時と同じように、躊躇いもなく。
腕よりも心の方が痛い。
「顔も、見たくないくらい嫌いなら、もっと早く言えば」
「真由利、何か誤解して……」
「何で、追いかけてきたりするの……!」
「真由利、聞けっ……」
「あの日も、追いかけてきたりしなければ…、……嫌いなら、どうして追いかけて来……」
「聞けって!」
廊下に木霊する声。
彼の言葉を聞く余裕などあたしにはなかった。
「顔も見たくない、くらい……」
「あぁ、見たくないね」
改めて言葉にされて、息を呑んだ。
あたしの心にその一言が突き刺さった。
「俺に負い目感じたお前の顔なんか、もう見たくない」
涙で澄んだ視界に映った彼の顔は、泣きそうだった。
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