~ 押し殺した気持ち ~

15/16
前へ
/19ページ
次へ
「最後まで聞かないんだから……」 「なんて言うつもりだったの?」  出逢うのが遅くても、彬を好きになる。  心の中で云って、笠野くんに笑顔を向けた。 「続きを聞けるのは、彬だけだから」 「じゃあ、早く追いかけて、言ってあげなよ」  頷いて、駆け出した。  胸の中、想いは溢れるのに、言葉にならなくて、早く彬の傍に行きたいのに、脚が縺れた。  伝えたいことがあるんだ。  ずっと、心の奥にしまい込んだ、切ない気持ち。  諦めの中を、ずっと泳いでいた。  傷つくのが恐くて、背を向けてきた。  言いたくても言えない、どうしたらいいかわからない、同じ想いを抱えていた。  不器用過ぎて、気持ちをどう表現したらいいか、わからなかった。  心の真ん中に在る想いは、少しも変わらなかったのに。 「彬っ!」  階段の踊り場で、肩越しに振り返った顔は、ふてくされていた。 「なんだよ」 「彬…拗ねてるの?」 「拗ねてない」 「嘘ばっかり」  歩み寄って見上げると、彬は目を逸らした。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加