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「最後まで聞かないんだから……」
「なんて言うつもりだったの?」
出逢うのが遅くても、彬を好きになる。
心の中で云って、笠野くんに笑顔を向けた。
「続きを聞けるのは、彬だけだから」
「じゃあ、早く追いかけて、言ってあげなよ」
頷いて、駆け出した。
胸の中、想いは溢れるのに、言葉にならなくて、早く彬の傍に行きたいのに、脚が縺れた。
伝えたいことがあるんだ。
ずっと、心の奥にしまい込んだ、切ない気持ち。
諦めの中を、ずっと泳いでいた。
傷つくのが恐くて、背を向けてきた。
言いたくても言えない、どうしたらいいかわからない、同じ想いを抱えていた。
不器用過ぎて、気持ちをどう表現したらいいか、わからなかった。
心の真ん中に在る想いは、少しも変わらなかったのに。
「彬っ!」
階段の踊り場で、肩越しに振り返った顔は、ふてくされていた。
「なんだよ」
「彬…拗ねてるの?」
「拗ねてない」
「嘘ばっかり」
歩み寄って見上げると、彬は目を逸らした。
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