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目の前に、スローモーションの世界。
信号が赤に変わる間際。
スピードを緩めず迫る車と、追いかけて来た彼が私を突き飛ばして転んだその瞬間は、あたしの中から決して消えることはない。
まさか、追いかけてくるなんて思ってなかった。
全身に物理的な痛みを感じながら振り返った時には、苦痛に声を歪める彼が目の前にいた。
恐くて、あたしの身体は1ミリも動かなかった。
「真由利」
4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ると、彼はぶっきらぼうに私を呼ぶ。
無言のまま、お金を受け取って、あたしは購買に向かう。
「杉崎、俺の分も」
「あ、俺も俺も」
「却下! これは俺専用だからダメだ。テメーら自分で行け」
そんなやり取りがもう2年以上続いている。
何も言わないのは、全てあの日の事故が原因。
彼の右足は、日常生活に支障はないけれど、スポーツには耐えられない。
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