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笠野くんは呆れたように溜め息を吐いて、前の席に座った。
「杉崎ってさ、彬のこと好きなの」
思いもよらない質問に驚いたけれど、答えることができなくて俯いた。
否定も肯定もできない。
好きという気持ちは言ってはいけない。
押し潰されそうなほど胸を痛めても、あたしに言う権利はないし、言ったところで、粉々にされるのがわかっているから。
その事実を前に耐えるしかなくて、口唇を噛んだ。
「何で気持ち殺そうとしてるかわかんないけどさ、言葉にしないと伝わんないよ?」
取り返しのつかないことをしたあたしを、彼が許すはずない。
それは、態度を見ていればわかる。
「彬の言いなりになんかならないで、もっと我が儘になったらいいじゃん」
笠野くんは、あたしがしたくてもできないことを簡単に口にする。
どれほどの覚悟であたしが胸の奥に閉じ込めてきたかも知らずに。
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