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「ふとした時、彬のこと、好きで仕方ないって顔して見てるの、自分で気づいてないだろ。見てるこっちが苦しくな……」
「あたしに、言う権利ない」
自分の感情は、あたし自身がわかってる。
気持ちを押し殺すのが、もう限界に近いってことも。
考えないようにしていたことを考えさせないで。
長い時間をかけて築き上げた決心を崩そうとしないで。
笠野くんの言葉をこれ以上聞いてられなくて、教室を飛び出した。
今ならまだ、間に合うから。
呑み下して、深呼吸して、刻み込まれた記憶を呼び起こせば、好きなんて、おこがましくて言う気も失せるでしょう。
あの時の事故は過去になっても、身体に刻み込まれた傷は消えることはないんだから。
そう自分に言い聞かせることで、危うい均衡を保ってきた。
それは、この先も変わらなくて、変えてはいけないこと…――。
あたしは、自分のことばかりで、彼が今どう思っているかなんて、考えたこともなかった。
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