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口唇を噛み締めて見つめる彼の姿が、滲んで見えなくなる。
涙など枯れ果てていると思ったのに。
零れ落ちるのを止められない。
いつかこんな日が来るんじゃないかって思っていた。
気持ちとは裏腹に、突きつけられた現実に、心が悲鳴を上げる。
それは、あの時の感情に似てる。
当時も今も、彼はあたしのものじゃない、その事実に変わりはないのに。
手の届かないくらい遠くの存在と知って尚、どうしようもなく、求めてしまう。
けれど、あたしの存在が彼を煩わせるのなら、その終わりは、あたしから告げよう。
溢れる想いの中、言葉を探した。
「真由……」
「だいっきらい……」
歩み寄った彼の脚が止まる。
あたしが吐き出したのは、あの時と同じ言葉。
口唇が震えて、彼の耳に届く、あたしの嘘。
他に見つからなかった。
どんな言葉も似合わない。
矛盾の海を泳ぎ切れずに、力尽きてしまう。
切り裂かれるような胸の痛み。
これが、限界だった。
「真由利っ!」
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