≪序曲≫

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午後5時。 1日の授業が終わり、散り散りに生徒たちが下校していく。 残るのは、部活動や課外活動がある生徒くらいか――… だんだんと静まり行く校舎を、温かくも強い夕陽がオレンジ色に照らした。 『はぁはぁっ…早く練習いかなきゃっ。』 校内の階段を駆け上がる女子生徒が一人。 腕にはピアノの楽譜を数冊抱き抱えている。 息をあげながら彼女がたどり着いた先は、静まりかえる音楽室だった。 ―――よかった…誰もいないや。 ほっと、安堵の表情を浮かべて肩の力を抜いた。 静寂をあまり乱してはいけない気がして、そっとドアを開けて中に入る。 少し息を整えて、部屋の後方に落ち着くグランドピアノに歩み寄った。 授業で使用したままなのか、鍵盤はあらわになった状態だ。 楽譜を譜面台に立てかけ、座る時間も惜しいほど待ちきれず、白と黒の列に指を滑らした。 心地良いCの音―――… 余韻が部屋をめぐる中、ベランダの窓ガラスがスライドすると共に、カタカタと音をたてた。 彼女は気付いていない。 後ろからそっと近づく人影。 彼女は楽譜を開き、両手を鍵盤に置こうとする。 それと同時に、人影もピアノに向かう彼女の肩に、前触れもなく手を伸ばす。
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