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「んと。間嶋クン、待ち合わせ? 隣に座ってもいいかな。一人でファストフードなんて、いかにも寂しいじゃない」  あんまり涼子が屈託なく笑うので、『あれ、独身だっけ?』と思わず間嶋は問い掛けてしまった。 「そんな風に見える?」  涼子は上目遣いで頬を膨らませた。拗ねたとき、涼子は決まってこんな表情を見せた。まるで昔のままだと、間嶋は苦笑した。  あれから二十年の歳月が二人を隔てたというのに、何も変わっていない。  涼子は間嶋の位置するカウンター席の右隣りに腰掛けた。トレーの内容を見る限り、どうやら夕食をここでとるつもりなのだろう。白くか細いうなじに灰色の影が宿るように、彼女の私生活にも暗い落し穴がぽっかりと口を開けている、そんな気がした。 「間嶋クンの話は噂で聞いてるよ。今や作家先生だなんて、すごいね」 「そんなにいいもんじゃないよ。それより僕はもう随分前に君が結婚したことを聞いていた。東京での生活、長いんだろ?」 「そうね、大学からこっち。そのまま東京で就職して、そこで知り合った人と結婚。かれこれ十年近くなるわね」 「絵に書いたような結婚じゃないか」  間嶋の声色に、皮肉めいた明るさが滲む。心のどこかで、彼女の不幸を願っていた。思いがけず、己の本音に気付かされ、間嶋は暗澹たる気持ちになった。
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