ストレート直球告白

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「……スーっ」 「こっちの気も知らねぇで……」 口ではそう言いながらも、 ホントは違った。 頭では分かった振りをして、 実際に体は分かってなかったりする。 兄貴が隣に眠っていることが、 今の俺には耐え切れない状況だった。 人間には、本能がある。 生まれつき持っているものだ。 その本能はこういう時に どうなるのだろうか? もう1つ、理性はこういう時 どうなるのだろうか? 抑えきれない感情は 隣で眠っている兄貴を見ると 今にも溢れ出そうだ。 溢れ出たら、どうなる? そんなことを考えていると、 本能が剥き出しそうに なるのが分かった。 でも、抑えきれないときは? そんなこと考えてると、 自然と眠くなってきた。 そして、いつしか 頭で考えることを止め、 深い眠りへとついていった。 あの時― 抑えきれない本能を 溢れ出しそうな本能を止めずに、 ただ流されていれば、 よかったのかもしれない。 あの時にはもう、 いや兄貴と出逢ったときから 俺の歯車は回っていたのかもしれない。 止まることを知らないまま、 ずっとずっと……。 深い眠りから、目が覚めた。 隣には、兄貴はいなかった。 1階に下りて時間を確認した。 すると、本来なら 帰って来ているはずの おふくろと親父の姿がなかった。 そのかわり、兄貴の姿があった。 「あっ、森起きたんだ」 「親父達は?」 そう投げかけた質問の返事は、 予想外の言葉だった。 「あぁ、親父達なら 伊豆へ旅行に行ったけど」 「伊豆?何で?」 訳が分からない、何でいきなり 伊豆なんかに……。 「あぁ、おふくろが 商店街のくじ引きで1等当てたから。 それで、出張から帰って来た 親父連れて2人で行ったってわけ」 「……じゃー、俺等は?」 「えっとー、3日間2人だけだよ。 まぁ、男2人なら何も心配ないけど。 何?もしかして、 森も伊豆に行きたかった?」 「伊豆なんかどうでも、 いいんだよ。何で……」 その場で俺は、 行き場のない自分を哀れんだ。 どうしようもない。 行ってしまったものは、 帰ってこない。 「どうする?晩飯」 「何でもいい……」 「じゃー、 肉焼いて食おっか」 そう言い残して、1人 俺の気持ちを知らない兄貴は キッチンへと消えていった。 そんな後ろ姿を見ながら、 俺は頭を冷やすために 洗面台へと歩いて行った。 キッチンへ戻ると、 肉が焼け香りを漂わせていた。
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