186人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
『ヒュプノシス』
彼を知ろうとするとき、その存在を無視することはできない。
『ヒュプノシス』
それは名前だ。
『ヒュプノシス』
そこには悪意がある。
『ヒュプノシス』
それはサークルの名前。
『ヒュプノシス』
彼はそのメンバーの一人だった。
『ヒュプノシス』
彼はそのグループの構成員でありながら、いつしかそれは彼を構成するものになっていた。
悪意は根を張り、彼を作る要素となる。
ヒュプノシスは5人のメンバーで構成されていた。
そのグループの目的……
それは快楽を得ること。
その単純な言葉に集約されていた。
様々な手段で集められた女性に対し、彼らの中の一人が特殊な行為をし、その結果無抵抗になった女性相手に性行為に及ぶ。悪と断言するのに些かの躊躇もない集団。
今の憲二を知る者には、そんな行為を行う集団の中に彼がいたなど想像もつかないだろう。憲二にだってそんな自分が信じられないのだ。そして彼は今も悔やんでいた。自分がしてきた悪事を。
「どうした憲二、しけた顔して」
頭の中に忌まわしい車中での出来事がよみがえる。記憶の声の主は浅倉愼一。ヒュプノシスの中心であり、特殊な何かをを使いこなす男。彼が憲二の中に魔物を住まわせた。
「どうした憲二、しけた顔して」
頭の中でその声が反響する。サイレンの鐘のように不愉快につんざく。彼はこめかみに手を当て瞳を閉じる。
去れ、ここは俺の頭の中だ。
当然憲二は彼を憎んでいる。しかし不思議と彼を憎みきることはできなかった。
なぜなら犯してきた行為、その全て彼のせいにすることはできないからだ。非はその行為に荷担した俺にも深く深くある。彼はそんな風に思い、何より自分の不甲斐なさを憎んだ。
彼は自分の罪を受け入れてきた。しかし時々潰されそうになるのだ。その重圧は無言で迫り来る。夜の隙間から、街の片隅から、見上げた空のその上から。
どこであれ彼が生きている限り。
最初のコメントを投稿しよう!