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明彦も今日は仕事のきりが付いたらしく、鞄に荷物を入れている。
奈央子も、仕事は終わっていた。昼間のノルマを夕方まで伸ばさないのが彼女――坂口部長から声が掛かる様子も、今日はなさそうだ。
だが…彼女の足は、動かなかった。いや――動かなかったというより、意図的に動けなくさせていた。
今、席を立てば……彼と一緒に居合わせてしまうかもしれない。
《お互いに、別々の方が良い》
「あれ先輩、今日残業ですか?」
隣の博美だった。
「ちょっと、最後にやらなくちゃいけなくて――」
「程々にしないと、また体崩しますからね?」
「ありがと、気を付ける」
「じゃ、お先ですっ」
奈央子は視線を戻し――書類へと目を向けるフリをし続けた。
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