第六章~待ちわび~

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「何か、強くなってきたなぁ…」 奈央子は降り注ぐ大雨を眺めた。 会社を退社したのは、今から少し前――思ったより順調に書類は完成し、考えていた時間よりも早く終える事が出来た。 …だが、そんな彼女の頑張りなど嘲笑うかのように――当初、小降りだった小雨は、大粒の雨へと変わっていたのである。 (…どうしょ) 奈央子は鞄にしまっていた、携帯電話を取り出した。 アドレス帳ボタンを押し、一人の人物で止める。 (黒沢君…ぃるよね?掛けた方が、良いのかな??) 発信ボタンに指先が触れる――しかし、その親指が力を入れる事はなかった。 (でも、こんなに降ってるし…迎えに来てもらうのも、迷惑掛けそうだし―― ……駅から降りたら、少しは小降りになってるよね) 携帯電話をもう一度鞄にしまい込むと、奈央子はその足を大急ぎで駅へと向かわせた。
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