第十二章~噂の女~

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明彦は、そそくさとその場を離れた。 奈央子の名前は、口には出せない…。彼女に、迷惑が掛かってしまうから――。 だが、本音を言ってしまうと……奈央子と同棲している事、皆にバレても良い――と、思っていた。 ……どうしてだろう? 少し前までは、十歳も年上の女性と――しかも、会社の先輩と一緒に暮らしているなんて事……知られたくなかったはずなのに…。 今は…そうでもない。 それ程“彼女”の事を、自分は特別に感じ取っているという事なのだろうか――? しかし……自分はそう思っていても、相手も同じ気持ちだとは限らないのだ。 (奈央子さん、噂になるの…嫌だろうし) 何とも言えぬ表情で、明彦は食堂の出口を目指した。
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