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「いや俺はまだ中佐だ、……って、そんな事はどうでもいい。サファイア。どうか友の頼みを引き受けてくれないか?」
「嫌だね」
即答。
迷う様子すら見せなかった。
解ってはいたが、こうもはっきり拒絶されるとは。
グレイスは迷った挙句、早いとは思ったが切り札を出す事にした。
「お父上がどうなっても構わないのか?」
グレイスの言葉に、宝石商の紅茶を啜る手が止まった。
そしてティーカップを置き、紅い唇だけでにやりと笑う。
「卑怯とは言わないよ。父の命を握るなんてねぇ。人情に訴える、実に幼稚な手段だ」
どうせ君も家族の命を握られているんだろうと友人は続けた。
グレイスは唇を噛む。
そんなグレイスに構わずサファイアはなおも言葉を続ける。
「そして家柄と地位もね。君のご両親やご兄弟の事を考えると、こうして僕に必死に頼む理由も解るよ。お互い様って訳だね」
でも、と宝石商はティーカップを手に取りながら言う。
「全て僕にはどうでもいい事だよ。グレイスには気の毒だけどねぇ、僕は父が殺されたって構やしない」
友人が紅茶を啜ると、深く被ったフードから黒髪がさらさらと零れ落ちる。
まぁ……。予想通りと言えば予想通りの反応だ。
心底からの言葉ではないだろうが、どうあっても拒絶するつもりらしい。
しかし。
引き下がれない。
鬼神を救うのはサファイア・P・スィアーノでなければならない。意地でも引き受けさせてやる。
グレイスは深呼吸をひとつしてから口を開こうと、した。
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