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「この間ね、貴族様の御屋敷に呼ばれたんだよ」
「……は?」
「旦那さんがね、結婚記念日に奥さんに何かプレゼントしたいって言うのさ。泣ける話じゃないか」
どのあたりが泣けるのだろう。
いやいや、このままでは話が違う方向へ流れてしまう。
グレイスは慌てて口を開く。
「無駄話は後にしてくれ。今はだな、」
「奥さんがこれまた美人でねぇ。君が惚れてるお姫様には劣るけど」
「なっ……。そ、それは関係無いだろう!」
サファイアはグレイスの慌て振りを見て小馬鹿にしたように言う。
「ああ。その様子だとまだ薔薇ひとつ贈ってないね。全く君は奥手過ぎる。家柄良し。身分良し。容姿も完璧なグレイス・アスティ中佐。お姫様も満更じゃあなさそうだったけどなぁ」
図星だった。
固まるグレイスに構わず、宝石商は左手の指輪を外して弄びながら楽しそうに話を続ける。
「なんなら指輪でも贈るかい? 安く売ってあげよう。この際プロポーズしてみなよ。あのお姫様には、そうだなぁ……」
サファイアは懐から白いハンカチを取り出してその上に装飾のないシンプルな金の指輪を置いた。中央で小さなルビーが光っている。
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