62人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから、ギル・ストラ伍長を助けるのは、君でもいい訳だ」
そうだ。
そうだった。
そういう話をしていた。
グレイスは宝石商の友人の術中に嵌められたのだ。
僅かでも本題から離すという話術に。
「駄目なんだ。お前でなければ駄目なんだよ、サファイア!」
「軍は何故僕に拘る?」
中性的な。
冷たい声だった。
グレイスは言葉に詰まる。
「それはお前が、」
「今回の鬼神の誘拐話。興味深かったよ。ヤラセ臭いけどね」
サファイアの声はどんどん冷たくなっていく。先程までのとぼけた様子は微塵もなかった。
彼は砂色のフードを深く被り直してから立ち上がった。
そして、挨拶もなしにその場を去ろうとする。
グレイスは引き止めようと立ち上がるが、それは友人の言葉に遮られた。
「グレイス。隠し事が多過ぎると思うよ。人にものを頼む時はもっとはっきりした態度で臨むべきだよ。それに、言った筈だ」
嫌だ、ってね――
拒絶の背中を、グレイスは唇を噛んで見送った。
残されたティーカップと共に。
Ⅰ,END.
最初のコメントを投稿しよう!